ふく動物病院

診療科目

尿膜管遺残症とFTUTD(論文的考察を加えて)

猫の尿膜管遺残(主に尿膜管憩室:Vesicourachal diverticulum)とFLUTD(猫下部尿路疾患:近年ではFUSと表記も)の関連性については、国際的な獣医学雑誌(PubMed掲載論文など)で複数の重要な研究や報告がなされています。
FLUTDは症候群(血尿、頻尿、排尿困難などの症状の総称)であり、その原因の多くは特発性膀胱炎(FIC)や尿石症ですが、「尿膜管遺残がFLUTDの引き金(素因)になる」、あるいは「FLUTDの慢性的な炎症によって二次的に尿膜管憩室が形成・顕在化する」という、相互の強い関連性が示唆されています。

代表的な知見や論文の傾向は以下の通りです。
1. FLUTD症状を示す犬猫の尿膜管異常に関する統計研究論文例: Ultrasonographic Diagnosis of Urachal Anomalies in Cats and Dogs (2020)
内容・示唆:尿膜管異常(UA)を持つ猫60頭と犬38頭を対象とした回顧的超音波研究です。猫における尿膜管異常の96.7%が「尿膜管憩室(膀胱尖部の出っ張り)」でした。この研究では、尿膜管異常を持つ猫で最も多く見られた臨床症状が排尿困難(Stranguria)、血尿(Hematuria)、そして尿道閉塞(Urethral obstruction)、つまり典型的なFLUTDの症状であったと報告されています。また、膀胱内容物の異常として、尿石症の微砂(結晶・堆積物)が多く確認されました。

2. 「先天性か、それともFLUTDによる後天性(二次性)か」の病態仮説論文例: Etiopathogenesis and biological behavior of feline vesicourachal diverticula. Don’t just do something–stand there (PubMed)
内容・示唆:猫の尿膜管憩室の発生機序(病因)に関する古典的かつ重要な考察です。猫には「無症状の微小な尿膜管遺残(肉眼では見えないレベル)」が潜在的に多く存在しているとされています。しかし、猫がFLUTD(特発性膀胱炎や尿石症など)に罹患し、慢性的な膀胱の炎症や、排尿時の過度な圧力(尿道閉塞などによる圧力)がかかることで、その脆弱な部分が引き伸ばされ、肉眼で見えるレベルの「後天的な尿膜管憩室」へと発展・顕在化するという病態が示唆されています。

3. 尿道閉塞や尿石症を伴う尿膜管遺残の症例報告論文例: Urethral obstruction and urolithiasis associated with patent urachus in a cat などの症例報告
内容・示唆:FLUTDの重篤な病態である「尿道閉塞(おしっこが詰まる状態)」や「尿石症」を起こした猫を精密検査したところ、背景に尿膜管遺残が隠れていた、というケースレポートが多数存在します。憩室(袋)の内部は尿が澱みやすいため、結晶が析出しやすく、それが尿石へと成長して尿道を詰まらせる(FLUTDの悪化)という悪循環を生むことが指摘されています。

今回我々が遭遇した尿膜管遺残症はまさにこれ!
ここまで明瞭に造影された尿膜管はなかなかお目にかからない(チャンピオンデータ!)↓

膀胱陰性造影を実施後、二重造影

2歳の去勢済みのオス猫の尿路閉塞で当院を紹介受診しました。
3Fr尿道カテーテルにて尿道内の結石を膀胱内にもどし、膀胱切開にて結石を摘出いたしました。
同時に、尿膜管の切除生検を実施しました。

論文から見える臨床的なポイント論文や獣医学的な合意(コンセンサス)において共通しているのは、「FLUTDの症状を繰り返す若い猫や、内科治療に反応が悪い猫では、超音波や造影レントゲンで尿膜管遺残(憩室)の有無を必ず評価すべきである」という点です。

構造的な問題(憩室)がある限り、そこで細菌繁殖や結晶貯留が起きるため、環境改善や食事療法といった一般的なFLUTD治療だけではコントロールが難しく、外科的な切除が推奨される根拠となっています。

2026年9月18日