ふく動物病院

診療科目

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

免疫介在性溶血性貧血は命に関わることも多い血液疾患です。人医療ではAIHAと呼ばれております。
赤血球を自己ではない「異物」として認識してしまうことによって、免疫暴走によりそれを破壊し(昨今の新型コロナウイルスのように)その結果貧血に至る疾患です。
他の病気(特に腫瘍など)から続いて発生する事も度々認められます。
ただ貧血になるだけではなく、非常に危険な併発症を発症しやすく、積極的な医療介入が必要となる疾患です。


「原因」
感染症、腫瘍、薬剤、免疫の刺激など、原因の特定は困難とされます。

「発症傾向」
全犬種で発症の可能性があります。

「症状」
貧血に付随する臨床症状。
元気、食欲の低下、粘膜色が白くなる、黄疸が出る(白眼が黄色く見える、皮膚が黄色く見える、尿の色が非常に濃くなる)、呼吸が荒くなる
「検査」
身体検査や一般血液検査で判定します。特に有効であるのが血液塗抹による顕微鏡下での血球形態の評価(球状赤血球と呼ばれる赤血球の出現の確認)や免疫に関係する検査(クームス試験・抗核抗体)も併用し多角的に評価を行います。
また基礎疾患の存在も重要となり、基礎疾患が腫瘍であれば基礎疾患の治療を優先する必要があるかもしれません。
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(球状赤血球の血液塗抹所見)

超音波検査やレントゲン検査は併発疾患、基礎疾患の診断の一助となります。
「合併症・続発症」
非常に血栓が形成されやすい状態になり、血栓症の影響で多臓器不全に陥り急変、死に至る場合もあります。
IMHAに続発した血栓症に罹患した場合には非常に危険(ハイリスク症例)であり、血栓予防薬などを用いて積極的に予防していく必要性があります。
「治療法について」
ACVIM IMHA consensous(2019).png
※see no14
PCV / Hctが治療開始後2週間30%以上であり、疾患活動性の測定値の大部分(球状細胞症、凝集、血清ビリルビン濃度、網状赤血球数など)が改善された場合は、投与量を減らす。
ACVIM IMHA consensous(2019)ガイドラインより抜粋

ステロイド治療で導入し、1週間程で寛解が得られるかを確認します。寛解が得られない場合には免疫抑制剤の投与を行います。その他IVIG(ヒトグロブリン製剤)の使用や更なる(第3の)免疫抑制剤の使用、脾臓摘出術の検討が行われます。
また病期、基礎疾患に応じて、輸血や基礎疾患の治療、血栓予防を行っていきます。

「予後について」
ステロイド治療や他の免疫抑制剤の使用によりコントロールを行います。使用薬剤の効果が乏しい場合には、人医療で使用されており、既存の報告の中で効果のあるものを選択いきます。当院での使用実績、副作用の経験も治療を選択する上で重要と考えております。
「獣医医療で議論のある免疫介在性貧血(リンパ腫に続発して発生する)について」

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「B-cell High Gradeリンパ腫に続発してIMHA(Immune-mediated Hemolytic Anemia)が認められた犬の一例」より

人医領域の報告では慢性リンパ球性白血病の5-10%にAIHAが併発するが、悪性リンパ腫ではより低く、非Hodgkinリンパ腫9/519例(1.7%)にその合併を認めたという報告が人医領域で存在します。
しかし獣医領域のIMHAとリンパ腫に関する統計や治療報告はほとんでありません。
・More than 40% of dogs with lymphoma are anaemic at the time of diagnosis, regardless of the anatomic form of the disease (Abbo and Lucroy 2007).
リンパ腫の犬の40%以上は、病気の解剖学的形態に関係なく、診断時に貧血である。(Abbo and Lucroy2007)
・Anaemia is typically normocytic normochromic. It was assumed in this case of microcytic hypochromic anaemia that pre-existing anaemia of iron deficiency and anaemia of inflammation could be present due to inflammatory bowel disease (Weiss and Gasche 2010)
貧血は通常、正球性正色素性です。 この小球性低色性貧血の場合、炎症性腸疾患のために既存の鉄欠乏性貧血と炎症性貧血が存在する可能性があり(Weiss and Gasche 2010)

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「B-cell High Gradeリンパ腫に続発してIMHA(Immune-mediated Hemolytic Anemia)が認められた犬の一例」より

当院でもリンパ腫に続発してIMHAが認められた症例に遭遇します。(リンパ腫症例が多く来院することも一因と思います)
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「B-cell High Gradeリンパ腫に続発してIMHA(Immune-mediated Hemolytic Anemia)が認められた犬の一例」より

通常人医領域で適用になる治療は犬猫(特に犬)で適用になるものが多く、人医領域の治療報告に基づき一定の治療効果が得ることが可能と考えております。

[reference]
・ACVIM consensus statement on the treatment of immune-mediated hemolytic anemia in dogs(2019)
・B-cell High Gradeリンパ腫に続発してIMHA(Immune-mediated Hemolytic Anemia)が認められた犬の一例(小動物腫瘍臨床Joncol no26)

2022/02/01