フェレットの副腎疾患
フェレットの副腎疾患は、リンパ腫やインスリノーマと並んで頻度の高い腫瘍性疾患であり、我々の診療でもしばしば遭遇する疾患です。副腎皮質に生じた過形成、腺腫、腺癌などから分泌される性ステロイドホルモンの影響で、脱毛や雌の陰部腫脹、雄の前立腺肥大など、特徴的な臨床症状が発現します。本疾患に関する文献は多くありませんが、診断されるフェレットの平均年齢は3.4歳齢で、中性化された個体で罹患率が高い傾向にあると報告されております。
「雄のフェレットの副腎疾患の外貌写真」
「上写真と同症例の副腎摘出後の外貌写真」
「雌のフェレットの特徴的な外貌写真(外陰部の腫れ)」
<診断>
当院では、触診、超音波エコー、あるいはX線検査にて腫大・変形した副腎を確認したもの、あるいは脱毛・排尿困難・陰部の腫大など副腎疾患と思しき症状を呈した個体のうち、尿検査やX線などの一般検査でその原因が検出されなかったものを副腎疾患と診断し、治療を行っております。
<病理組織学的検査>
2008年のAdrenal disease in Ferrets in Japan(J. Vet. Med. Sci. 70(12): 1323-1326, 2008)の論文では、521症例のフェレットの副腎疾患の内訳は307例(58.9%)が副腎皮質癌、117例(22.5%)が副腎皮質腺腫、87症(16.7%)が副腎皮質過形成と報告されております。
<治療法>
外科治療としては副腎の摘出手術を行っておりますが、右副腎は腹部大静脈と近接しており、腫大して大静脈を巻き込んでいる場合、手術は困難となります。
リュープリンはGnRHアゴニストであり、持続的に作用することによって負のフィードバック効果が発現し、異常な副腎からの性ホルモンの分泌が抑制されます。ただし、リュープリンの効果はあくまで対症療法であり、リュープリンが副腎の腫大を抑制するわけではありません。
「2011年 動物臨床研究会 フェレットの副腎腫瘍33例の臨床分析のスライドより」
<発症年齢>
副腎疾患を発見されるフェレットは、5歳齢の個体が最も多く、5歳齢以上の症例が58.3%と、半分以上を占める結果となりました。発症の平均年齢は4.77歳齢であり、平均3.4歳齢とする過去の報告よりも高齢の症例が多い傾向が認められました。
<まとめ>
一般にフェレットの副腎腫瘍は切除が可能であれば、外科手術が選択されるが、症例が高齢の場合、併発疾患や術後合併症が危惧される場合は内科治療が優先されます。
副腎疾患の多くは来院時にすでに5歳齢以上である事も多く、外科手術が躊躇されます。しかし、内科治療はあくまで対症療法であり、根治療法ではないことを鑑みると、5歳齢以上の症例でも外科手術の検討が必要と考えられます。
<参考文献>
2008年 Adrenal disease in Ferrets in Japan(J. Vet. Med. Sci. 70(12): 1323-1326, 2008)
2011年 動物臨床研究会 フェレットの副腎腫瘍33例の臨床分析 石田幸代・出浦知也より抜粋)
2024/6/25