ふく動物病院

診療科目

ラプロスについての議論・・肯定的な話と否定的な話

ふく動物病院ラプロス.jpg
猫の慢性腎不全では尿細管周囲線維化に酸素欠乏の関与が示唆されております。ラプロスは腎臓の循環血液量を増加させ酸素欠乏状態を改善し腎機能を維持することが期待され、猫の慢性腎不全において臨床症状の改善と生活の質の向上につながる薬剤と考えられております。

Geddes, R.F., Elliot, J., Syme, H.M. (2015): Relalionship betweene plasma fibroblast growth factor-23 concentration and survival time in cats with chronic kidney disease. J. Vet. Intern. Med., 29, 1494-1501.

Takenaka,M(2009) Effect of beraprost sodium (BPS) in a new rat partial unilateral ureteral obstruction model
猫の慢性腎臓病(CKD)治療薬ラプロス(一般名:ベラプロストナトリウム)については、2023年から2024年にかけて、従来の「進行抑制」だけでなく「生存期間の延長」を示唆する重要な論文が相次いで発表・アップデートされています。
主なアップデート内容は以下の通りです。

1. 生存期間(MST)の大幅な延長報告(2023年7月)
酪農学園大学や東レの研究チームによるレトロスペクティブ研究において、ラプロスを投与した猫は非投与群と比較して、全生存期間が有意に長いことが報告されました。
IRISステージ3の猫における生存期間中央値:
ラプロス投与群: 32.4ヶ月(約2.7年)
非投与群: 17.0ヶ月(約1.4年)
ポイント: これまで「腎機能の低下を緩やかにする(Cre上昇を抑える)」効果は知られていましたが、実際の「寿命」に対する長期的なプラスの影響が具体的な数字で示された点が大きなアップデートです。

2. 多施設共同・ランダム化比較試験の解析(2024年10月)
最新のプロスペクティブ研究(前向き研究)でも、その有効性が再確認されています。
進行の阻止: 6ヶ月間の観察期間中、プラセボ群では26〜27%の猫がIRISステージ2からステージ3へ進行しましたが、ラプロス投与群ではステージが進行した猫はいませんでした。
数値の安定: 血清クレアチニン、BUN、リンの数値が、ラプロス投与群では試験期間中安定していたのに対し、プラセボ群では有意に上昇したことが示されています。

「一方で」
「ラプロス(ベラプロストナトリウム)には明確な効果がない」
とするネガティブな報告や、限定的な効果しか認められないとする見解もあります。
主に以下の2つの視点で存在します。

1. 欧米の専門家による懐疑的な見解
欧米(特にISFMやAAFPなどの猫医学会)のガイドラインや専門家の間では、日本ほどの高い評価は得られていません。
根拠不足の指摘: 日本で行われた初期の治験(N数=約190例)において、「血清クレアチニンの上昇を抑制した」とされるデータが、統計学的に「臨床的に意味のある大きな差ではない」と冷ややかに見られることがあります。
エビデンスの質: 2023年の「生存期間延長」の論文も、過去のカルテを振り返る「レトロスペクティブ(回顧的)研究」であるため、「最初から状態が比較的良い猫にラプロスが処方されていたのではないか(選択バイアス)」という疑念が拭い切れないとする専門家もいます。

2. 副作用とコンプライアンス(飲ませやすさ)の課題
治療効果以前の問題として、以下のネガティブな側面が報告されています。
消化器症状: 稀にですが、下痢や嘔吐などの副作用が出る症例があります。腎不全の猫はもともと胃腸が弱いため、投薬によって食欲が落ちてしまう本末転倒なケースが報告されています。

投薬ストレス: 1日2回の投薬が必要です。錠剤を飲むのが苦手な猫にとって、毎日の投薬ストレスがQOL(生活の質)を下げてしまうという、治療の継続性に関するネガティブな意見があります。

私もラプロスについては投薬の大変さ(猫が許容するかどうか)と費用面で飼い主さんの負担がない場合には処方を行なっております。

2026年3月1日